ごみばこ

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天司長のマーキング

特異点は最近ある事に気付いた。

なんやかんやあって復活した元天司長ルシフェルと現天司長サンダルフォン。この2人から同じ香りがする事だ。
清涼感溢れる花の香りは透き通るような、それでいて澄んだもので。始めは硬いかな?と思いつつも、嗅いでいると徐々に柔らかくなる匂いは心地良ささえも感じてしまう。
鼻にこびり付くような物でもないから指摘はしてこなかった。
だが困った事にそれは2人でいる時も、別々にいる時ですら同じ匂いがするのだ。
そのせいでルシフェルかと思って探せばサンダルフォンだったり、サンダルフォンかと思えばルシフェルだったりといった部分もある。
最初は天司だし、星晶獣だからそういう匂いなのかと思っていたのだが、四大天司の試練をこなしてティータイムに誘った時、ミカエルやガブリエルからは同じ香りはしなかった。
だから何故あの2人だけ同じ匂いがするのか、特異点には分からなかったので彼らを観察すればその理由がはっきりするかと思い、グランサイファーの中を歩いてみた。
午後を回った時間。
この時間なら、と厨房に向かう途中に香ばしい珈琲の匂いが鼻を掠める。
跡を追い掛けて厨房を覗けば、そこに居たのは件の天司長2人。
真剣な表情で蒸らしているサンダルフォンとそれを後ろから見ているルシフェル
ここまでなら普通だが、ルシフェルの右手はサンダルフォンの右肩に、左手は腰を抱いてぴったりとくっ付いている。触れるか触れないかのギリギリの距離まで顔を近付けて、ふわふわの茶色の髪の毛に鼻を押し付け「いい匂いだ」「今日の豆は〇〇産のものだね」と、見ているこっちが赤面しそうなくらいの甘さで接しているのは何度見ても慣れない。

「やあ特異点、まさかとは思うが君も珈琲を飲むのか?」

相変わらずの皮肉気な表情で聞いてくるサンダルフォンは、言葉にしなくても子供舌でブラックなど飲めるのか?と言っているようだ。

「濃いのは無理だけどちょっとは飲めるようになったよ」

だから頂戴と、ムキになって返せばそれ以上は馬鹿にはせずに専用のマグカップを用意してくれる。
丁寧な手付きで行う蒸らし工程のじっくりさが好きでじっと眺めてみる。
小馬鹿にしたり皮肉をぶつけてくるが、細かな所まで気付いたり、文句を言いつつも助けたり、人間よりも人間らしい律儀な性格をしている。それ故に好ましく思えたりもするんだけど、とそこまで考えて、ふと視線を感じた。
何だろう、と顔を上げるとルシフェルがこちらを表情の分からない顔で見ている。
ふわりと広げた羽で邪魔にならない様にサンダルフォンを包み始めるが、珈琲淹れに集中していてもやはり気付いたらしく彼は一度だけ後ろを振り向く。

「...ルシフェル、珈琲にはつけるなよ。その...羽が汚れるからな」
「そうだね、気を付けよう」

そうだね?
随分と柔らかい言葉を使うルシフェルに驚くも、あれよあれよと真っ白な檻に囲まれていくサンダルフォン
純白の翼で大きく囲まれたサンダルフォンは影になってやりづらい、等の文句を言っているが完全に姿は見えない。カチャカチャと食器の音も聞こえるから、中で用意を進めてるのだけは分かる。
なんで急にルシフェルはこんな事をしたんだろうと考えていると、嗅ぎ馴れた花の香りが鼻腔を擽る。
出処は、ルシフェルの羽からだ。
彼はこちらを横目で見ながら羽を器用に動かしてサンダルフォンの体のあちこちを撫でていた。
掴んでいた腰の手は気付けばしっかりと回されており、それはまるで逃がさないようにでもしているようで。

「っおい、ルシフェル。動きづらい...」
「すまない、...つい」

謝罪はしつつも腕は弛めていないし、髪の毛に顔を埋めてすりすりと撫で付けていた。
羽の檻の中から溜め息が聞こえてくるけど、サンダルフォンルシフェルを敢えて退かそうとはしないでそのままにしている。
我が子の全身を軽やかにタッチして羽を擦り付けてるその意味に気付くと、一気に顔が逆上せてきた。
ちらりとこちらを向く青い瞳は、誰が見ても分かるくらいだ。
ルシフェルは口元に人差し指を当てて、微笑むとそのまま両手で腰を抱き締めた。
恐らくルシフェルだけが分かっててやってる事。人知れず毎日行ってる独占欲の現れに特異点は心の中でご馳走様です…と呟いた。