ごみばこ

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フリロク3

前回の一件以来、フリオニールはロックを意識してしまうようになってしまった。
気が合うせいか共に行動する事も多く、周りからもペアで扱われるのが増えており、それはフリオニールにとって嬉しいような複雑な気分だった。
ロックの方はと言うと、別段気にしていないのか接する態度は至って普通で、気軽に狩りやら探索を誘いに来る。そう、意識をしているのがまるで自分だけみたいなのが余計にフリオニールを複雑にしている原因なのだ。

フリオニール!」
「リノア。どうしたんだ?」
「あのね、スコールとちょっと出掛けて来てもいいかな?」

相棒のアンジェロと共にやってきたリノアは今回の探索リーダーに任されたフリオニールにそう告げた。
周辺のイミテーション達は一掃したし、問題は無い筈だと思いつつも何故離れるのか問う。

「えっとね、一緒に植えた種が育ってるか気になって...」
「スコールと?」
「そうそう!育っていくのって見てて楽しいなーって!」
「はは、元気だな。夜には街に帰るからそれまでに合流してくれればいいさ」
「うん、ありがとう!スコールいいってー!」

元気よく手を振るリノアに一瞬五月蝿そうに眉間に皺を寄せるが、特に何を言うわけでもなくぱたぱたと近付く彼女を待ってから共に歩き出す。大っぴらではないが仲の良い2人は見ていて微笑ましい。
口角を弛めて見送っていると、不意に肩に腕が回された。

「よう、色男。なーに見てんの」

横を見れば間近で銀色の瞳に見上げられていて、フリオニールはぐっと喉を引き攣らせる。
自分よりも僅かに小さいロックは至近距離で接する時に必然的に見上げる形となる。軋んでいない外に跳ねた鮮やかな鈍色の髪。少しだけ垂れた大きめの瞳。見れば見る程年上には見えず少年に見えてしまう。
可愛いだなんてと己に否定しながら、フリオニールは至極平静を保ちつつ話し掛けていく。

「スコールとリノアが種を植えたんだそうだ。それの様子を見たいって言ってきたんだ」
「成程、若いっていい事だよな」
「...若い?」
「二人っきりになりたいって事だろ?つまりはデートだ」

ニヤリと笑うロックに納得する。
些細な口実で二人きりになりたいのは、仲睦まじいからこそだ。
毎日毎日次元の歪みやらスピリタス陣営との死闘の中ではそういった息抜きが大事になってくる。
少しの間だけでもスコールとリノアに安息が訪れるように、とフリオニールは思う。

「...、なあところでさ。この近くによさげな狩場見付けたんだよな」

行ってみないか?と問われるが、即答は出来なかった。
先に出掛けて行った2人のためにも合流ポイントを作らねばならないし、今夜泊まる宿だって探さねばならない。
食料の確保も大事なのは分かるのだが、リーダーを任された以上は持ち場は離れるわけにはいかないだろう。
一瞬迷ってから断ろうと口を開くと、それよりも先に地図を手にしていたヤ・シュトラが割に入る。

「いいわよ」

視力を失ったらしい白い瞳を瞬かせ、ふわりと微笑んだ彼女は大きな獣の耳を動かしていた。

「でも、まだやる事は...」
「周囲一帯の地図は完成してるし、後はここにエーテライトを立てるだけだから構わないわ。出来の悪い弟も手伝ってくれるし…ね」
「出来の悪い弟って俺かよー」
「あら?他に誰がいるのかしら?」
「ちぇっ」

すっかりいじけたヴァンにヤ・シュトラは「頼りにしてるわよ」と微笑んでいた。

「だから貴方も行ってきなさい。ずっとそんな調子じゃ息が詰まるだろうしね」
「...すまない、ありがとう」
「ありがとな、ヤ・シュトラ」

礼もそこそこにロックは上機嫌に肩に回した腕でフリオニールを引っ張っていく。
楽しそうなロックにそれを窘めるフリオニール。どっちが年上なのかと、ヤ・シュトラは待ってるのが飽きたヴァンに呼ばれるまで顎に手をあてて考えていた。

 

 

ロックに連れられてやってきたのは木生い茂るのどかな森林だった。円形に作られた森は中央に小さな泉があり、鳥や小動物の声が聞こえる木々の隙間から木漏れ日が差し込む静かな場所だ。
目的地に辿り着くと、フリオニールから手を離して解放し、泉の側に座った。

「到着っとね」
「...こんな所があったんだな」

次元喰いに荒らされてばかりだと思っていたが、まさか手付かずの場所があるとは、と感動しているとロックは得意げに「だろ?」と答えた。

「こないだの探索で見付けてさ、一緒になった時にあんたを連れてこようって思ってたんだ」
「他のみんなにまだ話してないのか?」
「...1番に見せたかったんだよ」

照れ臭そうに話すロックはいつもの飄々とした感じは無く、本心からの言葉のようだ。

「頑張りすぎなんだよ、光の戦士だって言ってただろ?1人で背負い込みすぎるなって。その為の仲間なんだしさ。...なんつうか、俺を頼ってくれないのはちょっと不満だし」

心が、暖かくなる。
表には出さないだけで、ロック自身はこんなにもフリオニール自身を考えていてくれた。
皆を早くに元の世界に戻す事ばかりを考えて、自分の事などお構い無しに先走っていた。そんなフリオニールに気付かせる為に、わざわざこの場所まで探してた冒険家の彼の優しさは元来から来るものだ。

「頼れよ、フリオニール。仲間を考えてるのはお前だけじゃないぜ」

ニヤリと口角を上げる男に「ありがとう」と礼を言うと、彼は少しだけ幼く見える笑顔を見せた。
そしてロックは「さて、」と呟くとおもむろに草の上に横になる。

「合流時間まではまだまだあるし、一眠りでもするかな」
「...狩りはいいのか?」
「フリオ、それこそこれはあんたと二人きりになる〝口実〟だぜ。野暮なこと聞くなよ」

二人きり。
先のスコールとリノアの事を思い出せば、つまりこれは。

「昼寝するデートなんて聞いたことないぞ?」
「でも息抜きには丁度いいだろ?」

そうして顔を見合わせた二人は大きく笑う。
なんて平和なんだろう。
たまにはこういう時間があってもいいのかもしれない、とフリオニールは考える。
ロックの横に同じ様に横になると、薄い雲が流れる青い空が見えた。

「青いよなぁ」

眠そうに呟くロックにそうだな、と返す。横になってからすぐに眠くなるなんて子供みたいだと思いつつも、改めてこの青い空のように気ままに生きているロックに確実に好意を抱いているのを再確認した。
きっと彼にはそんな気がないのかもしれないけど、ひっそりと想うくらいは許されるだろうと心の中で好きだと告げた。

 


その後、暫く経って目を覚ましたフリオニールはこちらに寄り添って、マントにくるまって眠るロックを見てしまい、思わず自分の口を押さえたとかなんとか。