ごみばこ

無断転載禁止。Do NOT post my novel on any website.

フリロク2

仲間と合流してから数日。
来たるべきスピリタス陣営との闘争の為に日々チームを分けて鍛錬を行っていた。
本日はラムザ、エース、オニオンナイトの3人との手合わせだったが砂埃と傷でボロボロになったロックの姿を見るに負けたのだろう。
木陰に座って大人しくフリオニールの手当を受けていた。

「あいつら容赦無さすぎだろ」
「ロックが新入りだから張り切ってるのかもな」
「...手荒すぎる歓迎ありがたいぜ」

大人顔負けの迫力で迫るラムザとエースは普段の温厚そうな姿とは全くの逆で、あの2人の印象が大分変わったとロックは胸中で納得する。
それだけ過酷な戦場にいるのだろうが、子供は子供らしくあった方がいいのでは無いかとおしゃまな少女のリルムを思い出した。

「どうかしたのか?」

思い出し笑いをしていたのを不審がって、フリオニールが顔を覗き込んできた。

「ふはっ、...いや元の世界にいる子供らしい子供を思い出してさ。ラムザとエースの落ち着きを見せてやりたいと思って」
「あの2人はしっかり者だからな」
「ほんとだよ...ッ、」

腕の汚れを落とすのに水を流すが、一瞬顔を顰めたロックに思わず手を止める。
押し殺した声だが確実に傷があると確信したフリオニールはそっとロックの腕を取ると向きを変えて確認してみる。そこにあったざっくりと大きく抉れた様な傷口が痛ましく見えて、自分が受けた傷でも無いのに眉間に皺が寄った。

「さっきの手合わせでついたんだと思う...、木にぶつかった時かな」
「...ヤ・シュトラか光の戦士を連れてきた方がいいか」

ケアルを使える仲間を呼ぼうと提案すれば、ロックは制止して首を横に振った。

「んな事したらあいつらが責任感じちまうだろ?」
「だけど、」
「心配すんなって、ポーションつけときゃすぐ治るからさ」

手合わせでついた傷だなんてなれば若い戦士は加減をしなかったからだと深い責任を感じてしまう。だが、ロックからすれば練習だからと手抜きをしないで、全力で向かって来た2人を好ましく思っているからこそ、黙っていたかったのだ。

「フリオ、」

ポーションを1つ、フリオニールに渡すとロックは少しだけ困った表情を浮かべる。

「自分じゃ上手く出来ないんだ、頼む」

受け取ったポーションを手にフリオニールは僅かに困惑が隠せなかった。
上着を脱いでTシャツ姿になっているロックは治療を受ける準備が出来ており、動かずに固まっているフリオニールを見上げている。

「...なあ、ロック。やっぱりきちんとした手当を受けた方が」
「へーきへーき、いつもこうしてるしさ。ほい」

差し出された腕はしなやかなで男性的だが、滑らかさも持っている。日焼けもしていない白い肌故に赤い血が酷く目立つ。
水で湿らせたタオルにポーションを染み込ませると、傷口にそっと押し当てた。

「...ッ、く」
「大丈夫か?」
「なんて事な、ッい!」

歯を食いしばって痛みに耐えるロックのこめかみに汗が流れる。
回復薬とは言え、抉られた所に触れれば相当な痛みを乞う。それでも悲鳴らしい悲鳴を上げずに耐えているのは本人が言っていたように〝よくあるから〟なのだろう。
出来うる限り痛みをロックに与えずに優しく手当を施し、簡易の包帯代わりの布を巻き付けた。

「...よし、終わったぞ」
「ん...ありがとな」

ずっと耐えていたせいか、終わった頃には汗で髪が張り付いていて、顎を伝った物が鎖骨にも流れ落ちていた。
意識がぼんやりとしているのか、どこか気怠げなロックは扇情的に見えてしまい、無意識の内に喉を鳴らしてからフリオニールは乾いた布でそっと汗を拭いていく。

「あとで水浴びすっからいいって」

やんわりと断るロックの頬を両手で挟むと、吸い寄せられるように唇に触れた。
目を丸くしてこっちを見るロックにハッと意識を戻すと慌てて体を離す。衝動的とは言え、一体何をしたのか。ただ手当をしていただけなのに。相手の顔がまともに見れず、背けて背中を向けて、罪悪感と後悔に苛まれているとロックがフリオニールの背中をぽんぽんと軽く叩く。

「おーい」
「す、すまない...その、わざとじゃないんだ、何ていうか、」
「...いや、別にいいけどさ」

気にしてない風に話すロックの感性が信じられなくなり、勢い良く後ろを振り返る。男が男にキスをされて別にいいだなんて、と。
普通は怒るべきだろう、とか自分がした事を棚に上げてでも言わなくてはならないと思っていたのに、振り向いた先には耳を赤くして困惑した表情のロックがいた。

「なんでそんな顔してるんだ...」
「え、いや...急にされたらなるだろ、普通」
「俺がした事を気持ち悪いとか思わないのか?」
「んん?...まあ、女性陣いるのになんで俺なんだってのはあるけど、別に俺はそんな風に思わないぜ」

お前には良くして貰ってるからさ、と言われ言葉に詰まる。
フリオニールとて、最初からロックをそう見ていた訳ではないのだが痛みに耐える姿や、その後の気怠げな姿に誘われてうっかりしてしまったくらいだ。
年上なのに、無邪気で飄々としている自由なこの男が羨ましいと感じた事はあるが、あくまでそれは親友の類いとしてであってそれ以上では見ていない。
なのに、照れ臭そうに鼻の下を擦りながら「いきなりはちょっと心の準備が整わない」などと言っているロックが無性に可愛く見えてしまう。 本当に年上なのか怪しい。
フリオニールはグッと喉を飲み込むと、ロックの肩を掴む。

「...なら、もしまたしたいって言ったらどうする?」
「どうもしねえって。いつでもどうぞ」

どこか恥ずかしそうに、でも不敵に笑うロックにフリオニールはもう一度、触れるだけの口付けを交わした。