ごみばこ

無断転載禁止。Do NOT post my novel on any website.

フリロク1

マーテリアの導きによって異界に飛ばされたロックは1人のどかな草原を歩いていた。
仲間もおらずあてもない、見知らぬ土地での探索だったが足取りは慣れたものだ。
崩壊後の世界でティナ達とはぐれた時を思い出すな、と自然と笑みが洩れる。

「...それにしても良い天気だ」

そよ風が草花を優しく撫でればゆらゆらと揺れ、青く若い香りが鼻をくすぐる。穏やかな気温、明るい陽気に眠気を誘われたのか1つ、欠伸をすると徐ろに草原に寝転んだ。
勿論寝ている場合では無いのだが、ロックは「ちょっとだけ」と独り言を呟くと瞼を閉じた。

 


眠りについて暫くして、不意に体を揺さぶられる感覚がした。
重い瞼をうっすらと開けると視界に入ったのは色とりどりの装飾が施されたバンダナと銀色の髪。
エドガーがイメチェンしたのかと思ったが、ここは自分のいた世界ではない事を思い出す。
目の前の切れ長の目をした男は初めて見る人間だ。

「大丈夫か?特に怪我は見えないけど」
「...ああ、うん。寝てたんだ」

掛けられた問いに昼寝した事を伝えると、男は目を瞬かせて呆気に取られていた。それもその筈、敵がいつ来るとも分からない草原のど真ん中で無防備に寝るなんて誰も考えないだろう。
そもそもこの男が敵ではない保証も無い。
そんな暢気な事をするのはロックくらいなものだし、もしここに仲間が居たら注意の1つでもされそうなものだ。
だが、いくつもの立派な武器を持ちながら敵意どころか善意しか持ち合わせて無さそうで、武器を抜く気配も無く、男自体もお人好しそうな優しい雰囲気を感じる。
ロックは上体を起こして体を伸ばし、大きな欠伸を一度すると、男に向かって手を差し出す。

「俺はロック。ロック・コールだ、冒険家をやってる」

軽く自己紹介をすると、男は目を細めると握手を返す。

「ありがとう。俺はフリオニール。元の世界では反乱軍に居たんだ」
「へえ、反乱軍。俺も似たような所にいたぜ」

似た境遇に出会うのは中身がどうあれ嬉しいもので、へらりと笑うとフリオニールは目を丸くした。

「...?どうかしたか?」
「いや...、随分無邪気なんだなと思って」
「無邪気ってそんな歳じゃないぞ」

はは、と笑うロックとは対照的に至極真面目な顔をしたフリオニールは「ティーダやジタンと同じ歳かと思ったよ」考え込んでいた。

「そいつら何歳?」
「17とか18だったな」
「...、...そ、そっか」
「ロックはいくつなんだ?」

何の気なしに聞かれ、思わずロックの肩がギクリと跳ねる。
まさか10代と間違われるなんて、まるで落ち着きがないと思われているようで恥にも程がある。
なかなか答えられずにもごもごしているロックにフリオニールは苦笑して「年齢は問題じゃないさ」と慰めた。

「まあそう思っとくよ」
「そんなに拗ねなくてもいいじゃないか」
「拗ね...?!それだとまるで俺が子供みたいだろ」
「はは、すまない」
「ほんとにそう思ってんのかよ」

不満気な表情でフリオニールの肩を小突くも、相手は笑いながら謝るだけで段々とこっちまで絆されていく。
フリオニールの居心地の良さはなかなかいいが、すっかり眠気の取れたロックは立ち上がると服に付いた葉っぱを払う。

「よっし、充分休めたしお前らの陣営まで連れてってくれ」
「ああ。勿論だとも」

マーテリアの導きにより出会った仲間の人数は数しれず。皆それぞれの世界から異界に呼ばれた者同士、自分達の世界を守る為、明日を守る為に手にした武器を振るう。
共に並んで歩く反乱軍の男の視線は間違いなく揺るぎない希望を持っている。
ロックは胸の内に残る、愛した女の残した不死鳥のほのかに温かい熱を感じながら、仲間達が持っている希望を支える力になれるなら、と強く願った。

 

 

その後、マーテリア陣営と合流したロックだったが、その楽天家な性格故にラムザとエースに「大人はもう少し落ち着いているものじゃないのか?」と言われ、フリオニールがまさかの年下だと判明したり、ジタンに泥棒仲間と間違われたり、ティナに「歳上なのはロックだけ...だよ...」と言いづらそうに告げられたりして不貞寝したりするのはまた別の話。