ごみばこ

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フリロク4

フリオニールは愛用の武器を毎日手入れしている。いざという時に刃こぼれしていたり、斬れ味が落ちてたら意味が無いからだ。
こうして夕食の後の時間を使って、自室で黙々と一つづつの武器を見ていると無心になれる気がしてフリオニールは気に入っている。
今日は別働隊が探索に行っており、明日は自分達が行く。その為に準備はしっかりしておかねば、と念入りにチェックしていると慌ただしい音が遠くから聞こえた。
何事かと出てみれば、満身創痍の状態の仲間で、酷い戦いがあったのだと一目で分かる。
その中に1人、同じ様にボロボロになったロックがいたのだが意識がないのか光の戦士におぶさられている。

「一体何があったんだ!」

ライトニングが慌てて駆け寄ると、光の戦士は床にロックを下ろす。

「次元の穴を見付けてそれを塞いでいる最中に急にベヒーモスが這い出てきたのだ」
「いきなりだったからメテオを防ぎようが無くてさ、一気に半壊状態になったってわけ」

帽子を外したオニオンナイトは不意打ちは卑怯だよとティナのケアルを受けながら愚痴が洩れる。
裂傷やら火傷などであちこちを負傷しており、見た目が痛々しい。ティナは胸元を押さえてごめんねと謝るが、オニオンナイトは首を横に振った。

「僕らはまだマシ。メテオの後にロックがいつもと違う短剣取り出してさ『俺のとっておき見せてやるよ』って、1人で走り出しちゃって」

フリオニールはその違う短剣に覚えがあった。
手入れを一緒に行った時に、ロックの武器が入った袋の中にあったやや幅広の銀の刃の短剣。
通称バリアントナイフ。所有者の体力が死地に近ければ近い程効果を発揮する伝説の一品。
普段は軽いからとマインゴーシュを気に入って使っているので、バリアントナイフ自体を持っているのを見たことが無い。だから、それを使う事の危険性がどれ程のものなのか、事の重大さが計り知れない。

「この泥棒と来たら策も無しに突撃しまして。ええ、勿論攻撃など止まる訳もないでしょう。爪の一撃と引き換えにナマクラナイフであの獣を怯ませたのですわ」

馬鹿な人ですこと、とシャントットは服についた埃を払う。

「何が馬鹿なんだよ!ロックがやらなきゃ全滅してただろ!」

シャントットの物言いにカチンときたバッツが掴みかかろうとしたが、それをクラウドとスコールに止められている。
シャントットも別に悪意があって言っている訳では無い。
実際、不意打ちによるメテオで半壊してた所、立て直しまでの時間稼ぎとしてロックが真っ先に向かった。自分だって負傷しているだろうに、それでも仲間を助けようとする姿勢は誇りだろう。
でも、とシャントットは考える。
ロックのしている事は諸刃の剣だ。爪の一撃を受けて一瞬よろけてたたらを踏むが、次の瞬間勢いよく上体を前に突き出すと同時に、ベヒーモスの首を真横に一閃した。
その作られた隙に立て直した残りの仲間の力を巨体に叩き込んだのだ。尋常じゃない強さの敵に勝利したものの、払った代償もデカい。
特にロックは倒れたまま動かないでいるのだ、下手したらマーテリアの所に連れて行かねばならないかもしれない。
倒れる前、「やったぜ、おちゃのこさいさいってね」とこちらを向いて笑う姿が、クリスタル戦争を終わらせようと死に向かうカラハバルハと重なってしまう。
ヤ・シュトラのケアルを受け終わり、部屋へと運ばれるロックを横目で見ながら、男はかくも馬鹿ばかりなのだからと嘆息した。

 

 

外傷も消え、失った体力を回復する為に暫く安静という事になったロック。2、3日もすれば良くなるというので、暇を持て余しているだろうとフリオニールはお見舞いがてら部屋へと向かっていた。

「そこの弟子。お待ちなさい」

背後から聞こえた高圧的で、凡そ光の戦士とは言い難い淑女の声。
振り向けば腕を組んで通路に立っている。立っているだけなのだが、もうそれだけで威圧が凄い。
言うなればセフィロスジェノバエクスデスのホワイトホールだ。
いつの間にシャントットはEXスキルを変えたのだろうと考えていると、シャントットの眉の片方が吊り上がる。

「...何かよからぬ事を考えていないでしょうね?」
「い、いやそんな事はない」
「......。...よござんす」

納得はしていなかったが、1つ咳払いをすると「さて、」と言葉を続けた。

「今からあのこそ泥の所に行くのでしょう?」
「ロックの事か?勿論」
「それでしたら、あんな戦い方はお止めなさい。アレを続けてたらいつか光も届かなくなりますことよ」
「...どういう意味だ?」
「まるで死に急ぐような目をしていましたわ、仲間意識は大事だけどあんなもの、ただの自殺志願者にしかなりませんわよ。それを伝えておいて頂戴」

シャントットは一気に話すと「では、ごきげんよう」と会話を終わらせて、背中を向けた。
物騒な文字の羅列が聞こえたのは気の所為じゃない。死に急ぐとは何なのか。
果たして本人に聞いても答えが来るとは思えなさそうだと感じた。

「よっ」

部屋に入ると案の定暇を持て余したロックがベッドの上で武器の手入れをしていた所だった。
体のあちこちに包帯を巻かれており、頬には薬液に浸した拳より小さな布が貼られている。
トレードマークのバンダナは外していて枕の横に畳まれて置き、普段は少ししか見えていない銀髪が露わになっていた。

「起きてて平気なのか?」
「寝てても暇だからな」

歯を見せて笑うロックに苦笑しつつ、ベッド近くの椅子を引いて座る。戻ってきた時、一時はどうなるかと思った。
キツく閉じられた瞼、薄い呼吸、服を濡らす血。
もし、戦闘不能ではなく死亡だったらという恐怖が心を冷やす。

「ここに来る途中、シャントットに会ったんだ」
「ああ、あのおチビさんか」
「お前が死に急ぐ戦い方をしてる、と言っていたよ」
「はは、そっか」

それなのに本人はあまりにもその意識が低い。笑って誤魔化すロックにモヤモヤとする。
気にしてないのか、それともどうとも思ってないのか。問い詰めようとフリオニールが口を開くと、ロックは「癖抜けてないんだな」と困った顔で後頭部をぽりぽりと掻く。

「俺、さ恋人がいたんだ、レイチェルって大切な人。でも帝国に殺されて、奪われたんだ。...人づてに聞いた帝国が持ってる生き返りの秘薬を取るついでに反帝国軍のパイプ役になったりしてさ」

バンダナをそっと取ると大事そうに握りしめる。快活な成りは潜め、その瞳は悲しげに伏せられた。

「なんだかんだいって秘薬は取れてやっとレイチェルを生き返らせたんだけど、でも彼女はそんな事望んじゃいなかった。俺に、俺自身の幸せを考えて欲しいって言って、彼女はこの石を託してくれたんだ」

そう言って手渡してきたのは手のひらにすっぽり収まるくらいの、赤く揺らめく輝きを持つ小さな石。
受け取ったそれはほのかに暖かく、まるでそれは春の陽射しのような暖かさだ。

「魔石フェニックス。綺麗だろ?」
「ああ、宝石なんかと比べ物にならないくらい綺麗だ。この暖かさはレイチェルが残したロックへの想いなのかな」
「よくそんなクサい言葉言えるよな...」

呆れた顔をするロックにフリオニールは少しだけ赤面すると、魔石を返した。

「その時の俺はとにかくみんなをレイチェルと重ねてて、守らなきゃって必死だったんだ。だから戦い方はそれの名残りかもな」

気をつけるよ、と一言付け加えて魔石を小さな麻袋の中にしまった。
そしてフリオニールの方を向くと、嬉しそうに目を細める。
いつも見る無邪気な、少年のような笑顔にフリオニールはドキリと胸が高鳴る。

「フリオって優しいよな」
「どうしたんだ突然」
「いや?なんとなーくそんな気がしてさ」

多くを語らず、優しいと比喩したロックは武器の手入れに戻る。
ヤスリで刃を擦る手は変わらず丁寧で、一つ一つに愛着を持っているのが分かる。
見舞いとして渡されたリンゴを剥いていると、ロードオブアームズで剥けたりしないかと問われてフリオニールは笑みが洩れる。

「刃が錆びるな」
「ネタとしては面白いんだけどな」
「光の戦士の彼から怒られるぞ」
「それもそうか」

皿に剥いたリンゴを乗せて渡すと、受け取ったロックはその1つをフォークに刺すとフリオニールに持たせる。
頭の上に疑問を浮かべていると、彼は悪戯っ子のように「食べさせてくれるまでがセットだろ?」と笑って口を開く。

「男にあーんしてもらって嬉しいのか...?」
「フリオだったらいいよ」
「あ、あー...ロック、そういうのはあんまり他所でも言うべきじゃないからな...」

それとなく窘めれば不満そうに表情が変わる。
そして無理矢理フリオニールの手にフォークを握らせると、それをそのまま自分の口の中に入れた。
開いた口の中から覗く白い歯と、赤い舌がやけに扇情的に見え、しゃくり、とリンゴの噛む音がフォーク越しに伝わってフリオニールはドキリとする。

「誰にでも言ってる訳じゃないからな」

残りの半分を齧り、ゆっくりと咀嚼をすると飲み込んでから果汁のついた唇を舌で舐める。
誘っているとも取られ兼ねない行動なのに、いやらしさが1つもない。ロック自身がそういう部分を持ち合わせず、極々普通にしているからなのかは計り知れぬ所ではあるが。

「これでもあんたの事は気に入ってるんだぜ、フリオ」
「気に入ってる...って」

まだ理解出来ていない様子のフリオニールに痺れを切らしたロックは、相手の襟を掴むとグイッと引き寄せて、半ば強引にキスをした。
以前したような触れるだけのものではなく、フリオニールの咥内に先程見た赤い舌が入ってくる深いものだ。
だが、向こうから来た割にはたどたどしい動きで、フリオニールは思わずロックの後頭部をがっしり掴むと体重をかけてベッドに押し倒す。
舌を甘噛みすると、それから軽めに吸い付く。鼻にかかる様な吐息は慣れていない印象を受けた。
何度も角度を入れ替えて口付けをし、舌を絡ませていくとロックのまつ毛がふるふると切なげに震えていた。
暫くしたのち、唇を離すと荒い呼吸をしていたが、やがて落ち着いてきたのか徐々に整いだす。

「...、がっつきすぎじゃないか」
「すまない...なんていうかつい...」

ロックの方から仕掛けてきたせいで歯止めが効かなくなってしまった。申し訳ないと思いつつも、彼に対する欲求が抑えられなかった事実は覆しようがない。
何せ、結構前からそういった気持ちはあったからだ。
男だの世界が違いすぎるだのと言い訳ばかりしていたが、もうそれだけでは誤魔化しが効かなくなっていた。

「なぁロック」

銀髪を撫でつけながら、愛おしそうに聞けば「ん?」と返ってきたのでこめかみに口付ける。

「気に入ってるって俺の事が好きって事なのか?」

もしそうなら色々な質問をしてみたかった。いつ、だとか、どこが、とか。
だけど彼はただ擽ったそうに笑って「さあね」と答えるだけだった。