ごみばこ

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S.C.Pパロの人外フェルと人間フォンの話 前

アイテム名:SCP-119

オブジェクトクラス:Euclid

特別収容プロトコル:SCP-119は植物型を使用していない、全て無機質な家具と浴槽が備わった2部屋の独房に収容されています。
自由に施設内を歩く事を許されており、メイン食堂で食事をします。
地面とあらゆる接触と外出は許されていません。
どのような状況においても他SCPとの接触は許されていません。決してSCP-119に暴力を振るってはいけません。彼もまた暴力を望んでいません。

SCP-119は現在サイト-34に収容されています。


説明:SCP-119はロシア人のような色素の薄い肌をした20代後半~30代前半の男性のような姿をしており、身長188cm、体重84kgで銀髪に青い瞳をしています。
両腕、脊柱、両肩肩甲骨は未知の金属に入れ替わっているように見えます。
指摘しても目に止まるだけで、どのように、何故、いつ頃、入れ替わったものなのか分からず、気が付いたら持っていたとだけ話します。
背中に6箇所の縦傷、首には1周する程度の傷があり、SCP-119にそれらについて言及すると口を閉ざし話すのを拒みます。
定期的に飲食をしなければなりませんが、植物由来のものの影響を受けるため完全に肉食です。


SCP-119は〝ルシフェル〟を自称し、通常は誰に対しても親切に話しますが、その口調は冷たく、抑揚が無く、機械的だと言われます。
とても有能で、あらゆる事柄を把握しており、要請をすれば職員を手伝います。
はるか昔のことから現在まで起きた出来事を詳細に説明する事が出来て、滅んだものも含め世界中で使われている多種多様な言語を話すことが出来ます。
映像記憶を公言しており、3分で100の辞書、機密文書を一言一句まで覚えていました。
しかし、〝空〟にまつわる情報は頑なに話そうとはしません。
身体的能力に関してもテストとしてSCP-682と対面させた際に、SCP-119は僅か2分で相手を完全沈黙させ、SCP-682の再生能力を著しく低下させました。


SCP-119の存在は本人の意思に関わらず全ての土やそれらに該当するものに影響し、10m範囲内(但しSCP-119は範囲を広げることが出来る)の植物や土で成長する生命に対して死をもたらします。
またその土地は全ての作物が育つことは永久に無くなり、現在においても改善策は見つかっていません。
何度か作物の種を要求されたので渡しましたが、全て失敗に終わっています。(そもそも種に触れただけで腐敗してしまうので、植える作業にすらいけていませんが。)
この為SCP-119は自分の意思で外出をしなくなり、作物は職員に頼む形で育てられました。

以下は今まで育てた作物である。

トマト・・・1鉢
珈琲・・・5m四方(サイト-34外の中庭)
赤いカーネーション・・・2m四方(上記に同じ)
紫のアネモネ・・・同上






パタン、とクリップボードを閉じたサンダルフォンは自然と溜め息が出てくる。
無事に財団の試験を突破して、晴れて職員の一員となった自分の元に来たのはまさかのEuclidクラスの管理だった。
SCP財団で危険性の高いものからsafe、Euclid、keterと分類され、常に人間に対して極度の敵対行動を取り、隙あらば職員を殺して脱走しようとするketer、性質が充分に解明されておらず予測不能な一方でketer程の脅威はないEuclid、完璧で永続的に収容が出来ている、きちんと管理されていれば異常が出ないsafeの3つだ。
初めてだからsafeくらいの、出来れば危険性が低いものがいいなという希望は打ち砕かれた。
聞けばこの〝ルシフェル〟というSCPは財団が出来た当時からいるらしく、一番の古株だそうだ。
そんな古いSCPの担当を新人に任せるなんて本当にナンセンス極まりない。俺が身寄りがないからいつ死んでもいいように危険なやつに配置したんだろうなとマイナスに考えて、自嘲気味に笑う。
とにかく当たり障りのない付き合いをしていけば視界にも入らないだろうし、長生きは出来るだろう。
そう独りごちて今日から世話になるサイト-34の入口の扉を慎重に開けた。
誰もいないのか施設内は静かだった。書類には確か10人程いた気もするのだが。
ざっと室内を見渡せば壁や床は白を基調とした色合いで、配置された家具は書類にあったように全て無機質素材だが、カラーリングは淡い青を縁取られた物で統一されている。シンプルながらにセンスはいい。
選んだのはあのルシフェルだろうか?
とてもじゃないがあのルシファー博士が選んだとは到底思えない。
だらし無さの塊のルシファーの行動を思い出しながら配置書に書かれた番号の席に向かうと、そこには既に荷物が置かれていた。

「...これも素材を変えてるのか」

思わず洩れた独り言が響いて慌てて口を噤む。
こんな新人丸出しの感想を誰かに聞かれでもしたらとんでもなく恥だ。深呼吸をし、気持ちを落ち着けて箱の中から文具用品やファイルを引き出しにしまい、ネームプレートをデスクの端に置いて、職員カードを左胸のポケットに挟む。
真新しいデスクと置かれた新品のPCや用具が全て自分に揃えられた物だ。ネットの情報だけでしか見た事が無かった財団の一員になれたんだと実感すると感慨深くなる。
取り敢えずは施設内の把握をしておこう。
よし、と気合いを入れて端末のマップを開いて振り向くと、

「君は新しい職員かな」

視界いっぱいに広がる端正な顔立ちに思わず悲鳴が出かかる。
癖ひとつない流れるような銀髪に青い瞳。間違いない、SCP-119〝ルシフェル〟だ。
黒のタートルネックに濃紺のデニム、手には黒の手袋をしていた。
男にしてはちょっと身長の足りないサンダルフォンの目の前に顔が見えるのは、このルシフェルが腰を屈めてるのだと分かった。

「...ああ、まあ」
「そうか。私の事は書類で見ているだろうが、ルシフェルと言う。宜しく」

ふわりと口角を緩く上げて柔らかく笑うルシフェルは危険性の高いSCPだとは思えない。
おまけに近いせいでなんか良い匂いがする。
男でも惚れてしまいそうな美形っぷりに胸がざわついていると、ルシフェルサンダルフォンの手にしてる端末を覗き込んだ。

「成程、ここの中の地図か」
「...ああ、着任したのは今日だから、仕事になる前に把握しておこうかと思って」
「なら私が案内しよう。まだ他の職員は脱走したSCPの対処に追われているからね」

脱走。
サイトはエリアと違い、公に知られてるSCPが多く収容されている場所で、逃げ出す程敵対性が強いものはいないと思っていたのに。
周りが困っていただろうに、俺ときたらルシフェルの書類の中身に尻込みして来るのが遅れた。新人のくせに、役にも立たない。
視線を床に落とすと、ルシフェルはまるでそのことが分かっているのか「案ずることはない」と慰めた。

「SCP-1048は分かるかい?」
「えぇっと...確かテディベアだったような...」
「そうだ」

頷いたルシフェルサンダルフォンを真っ直ぐ見つめて嬉しそうに目を細めた。
曖昧な言葉でしか答えてないのに。
何でそんな親が子を褒めるような目で見てくるんだ。
居心地が悪くなって、しかも混乱を極めてる頭をフル回転させて1048が何だったかを思い出そうとする。最近safeからketerに引き上げられたヤツだった気がした。
類似してる優しい心を持ったクマが不憫だと感じたのだ。
だから、そう、確か1048は、

「...ビルダーベア」

愛らしい茶色のテディベア。
人間に対して友好的な態度を示していたあのクマはとんでもなくイカれたヤツだ。
手を振ったり、足にしがみついたり、ダンスしたり。
人間に敵対心は無いと見せておきながら、影では歪で気味の悪い同じクマを3体作っていた。
全身が人間の耳で出来たもの、人間の胎児で出来たもの、錆びた金属スクラップで出来たものだ。
いずれも本体らしきビルダーベアとは違って、人間への殺意を剥き出しにしたキリングマシーン。

「かなり前にサイト-24で脱走して、そのアレが作ったものも同時に消えていた。...だが、今朝方監視カメラに映っていたそうだ」
「サイト-24はあの時に人がかなり死んで...、あ、だからか」
「その通り、人数が足りなくてね。ここの職員に頼んできたんだ」

君は覚えがいいね、と言って顔を近付けてじっと見てくるルシフェルが心臓に悪い。
と言うか近い...近すぎやしないか?触られそうだと思っていると、ルシフェルはまるで心が読めるのか「残念だが、私が君に触れる事は出来ない」とわざわざ伝えてきた。
そんな事書類で見て知ってる。
何を言っているんだと睨み付けてやれば、ルシフェルは意に介していないのか極々自然な動作で「案内をしよう」と促してきた。
いちいち仕草が洗練されていて嫌味のひとつでも言いたくなったが、言葉が出かかってから心の歪んだ自分に気付いて心底嫌気がさす。 
劣等感にも近いそれはすぐに払拭出来るはずもなく、サンダルフォンは鬱屈した想いで胃がムカムカしつつも歩いていく。
端末を手に内部を案内するルシフェルはここの職員よりも丁寧だった。
分かりやすく、覚えやすい。
1時間ほどで終わってメインフロアに戻ると、ルシフェルに短くお礼を言う。

「礼には及ばない。私もいい散歩になった」

緩やかに笑みをたたえたルシフェルは、左胸の職員カードに視線を移すとひとつ頷いた。

サンダルフォン。...いい名前だ」
「...どうも」
「君とこれから仕事が出来るのを楽しみにしているよ」

新人に気遣う上司のような優しさを感じられる言葉なのにどこか無機質で、感情が見られない。
予め用意されていた返答を発してるだけにも見えて、サンダルフォンはこれはルシフェルというSCP-119なのだと思い出した。

ここでの仕事は世界中で集められたSCPの情報をまとめ、日々更新される対象の取り扱い事項を差し替える。漏れてはいけない機密情報は検閲をし、全てを塗り潰す。
比較的友好的なルシフェルも例外ではなく、毎日観察して前日と何か違う事があれば直ぐ様報告書をあげなければならない。
起床時間が1分違う、食事方法を変えた、そんな些細な事でも財団にとっては貴重な変化なのだ。
着任してから1週間。
サンダルフォンは元々の勉強家で努力家の為、不慣れな動きをしていたのは初日だけだった。

「新人とは思えない働きだよな」
「それはどうも。俺でも出来るのだから君達もやれるだろ?」
「でたよサンダルフォンの皮肉と卑屈のハンバーガー」

ゲラゲラと笑う職員を朝からふざけた奴だと冷めた目で見据えていると、入口が急にざわつき始めた。
一体何事かと視線を向ければ、顔色が真っ青になった職員の1人。押さえている腕から血が滴り落ちていて大きな血溜まりを作っているのはひと目で見て異常事態だと断言出来る。

「またか...」

駆け寄る医療班に混じって見に行けば近くにいた職員が呆れたような、同情のような嘆きが聞こえ、サンダルフォンは何事か問うてみた。

「SCP-119に攻撃でもしたんだろうよ」
「...それが何か問題なのか?」
「アイツに何か攻撃をすれば全部跳ね返ってくる。それも何倍にもなってだ。おまけにSCP-119には傷1つ付かない、理不尽だろ」
「渡された資料にはそんなもの書いてなかったが?」
「当たり前だろ、検閲されてる部分だからな。そこだけ省かれて渡されたんだろうよ」

さらりと言われた内容に絶句する。検閲された部分の書類は渡されていない事実。
外部への漏れを恐れて新人には渡さなかったのかもしれないが、これでは本当に何かが起きるのを予兆しているのではないか。
気にするなよ、と肩を叩いてきた同僚に返す言葉も出ずに流れる血を呆然と見続けていた。

午後になり、一通りの作業を終えたサンダルフォンは施設内に設置されたドリンクサーバーから抽出された珈琲を飲んでいた。
紙はルシフェルの影響を受けてしまう為、ステンレス製のカップに入れて飲まなければならなかった。
色んな種類の飲料が飲める機械は便利だが、所詮はインスタント。
味の深みもコクも薄すぎるソレに、サンダルフォンは溜め息が出てくる。

「...こんなもの珈琲とは言えないな...」

あんまりな味に文句が出てくるが、本来なら飲めない物なのだから贅沢は言えない。
炒って、挽いて、蒸らして。
時間をかけてゆっくりと抽出すれば焙煎された香りがふんわりと広がる。自宅にいた時に日課のように行っていたことは、ここでは出来ない。
懐かしい記憶に浸っていると、静かな靴音が聞こえてきた。

サンダルフォン
「...アンタか」
「今日も変わりはないかな」

穏やかな笑みを浮かべたルシフェルサンダルフォンの傍に来ると手に持っているカップの中身を覗く。

「それは...珈琲か」
「ああ。まあ、珈琲とは言えない代物だがな。豆から淹れる本物の珈琲と比べたらこんなものは珈琲とは言えないさ」

鼻で笑ってカップを口につけるとルシフェルは不思議そうにしている。小首を傾げて考える仕草は成人している男性がやるにしてはあざとい気もするが、この男がやっても何ら違和感が無いのは可笑しく思える。

「なんだアンタ、珈琲を飲んだことがないのか?」
「ここのはあるが...君の言っている本物の珈琲は生憎知らないんだ」

普段、殆ど変わらない顔が僅かに動く。無機質な声音はそのままなのに、表情だけは少しだけ悲しそうだった。よく見なければ分からないくらいのレベルだが。

「......、道具があれば淹れられるが無いからな」

まともにルシフェルを見られない。
朝の出来事がサンダルフォンの頭からこびり付いて離れないからだ。
死に掛けた男、流れ落ちる血と地面に広がる赤い水溜まり。
そうだ。人に危害を加える事はゼロではない。
ルシフェルは人ではなく、人の形をした異常現象なのだと。

「もし」

かけられた言葉で反射的に見上げればこちらを見下ろすルシフェルと視線がかち合う。

「道具があれば本物の珈琲というものを味わえるだろうか」
「何...言ってるんだ...。そもそも外部からの物品の持ち込みは厳禁とされているだろ?」
「ああ。だが友に頼んでみよう。許可が下りれば君と珈琲が飲める」

そう話すルシフェルは心なしか嬉しそうに見えた。
機械のような声も弾んでいて、弧を描いた口元も穏やかに。
何故そんなに喜ぶのだと考える。
たかが珈琲だろうと出かかった言葉を飲み込んで、ルシフェルを否定せずに受け入れた。
これは財団に報告しなくてはいけない変化なのだから下手に刺激するなと思う一方で、心を凪いでくれる優しい声をずっと聞いていたいような気持ちがせめぎ合っていた。

「私に珈琲を淹れてくれないか?サンダルフォン
「...構わない、器具があればいくらでも淹れてやる」

不遜すぎたかと後悔が押し寄せ、恐る恐る窺えば彼は願いを聞き入れてくれたと目を細めていた。
慈愛を含めた蒼に気恥しくなって、誤魔化す様にどんな味が好みなのか問えば「君が淹れたものなら何でも美味しいだろう」と、更に心をむず痒くさせられ、顔がますます熱くなった。
今なら聞けるだろうか。
朝に見たルシフェルが危害を加えた理由。機嫌を損ねて同じ末路を辿らないだろうか。
不安を胸にルシフェルの名を呼べば、彼は応じてサンダルフォンを見下ろす。

「朝のを...見たんだ」
「...そうか。彼には悪い事をした」
「あれは貴方が意図的にやったのか?」

悪意を持っていたのか?と問いを色に乗せてじっと見れば、ルシフェルは悲しげに眉を寄せて首を横に振る。

「採血をしようとしただけだ」
「......」
「聞いたか見たか、どちらかは分からないが私に傷を付ける事は出来ないのは知っているね?」
「...ああ」
「それは私の意思に関わらず発動する。...あの時は採血用の注射の針の痛みが彼に反射しただけなんだ」

同情にも似た声で呟くルシフェルに返す言葉が無い。
あの職員はただ仕事をしようとしただけで、サンダルフォンと同じく隠された真実の部分を知らされていなかっただけの哀れな人間。

「私は止めるよう促したのだが、彼は注射器1本とて凶器になると頑なに渡すのを拒んだ」
「その後に職員が刺したら起こった、と?」
「ああ、それで相違ない。あれからどうなったかは分からないが」

淡々と語るルシフェルは職員への気遣いは皆無に等しい。
情報を知らなかったにせよ、制止したにも関わらず強行に及んだ職員にも非はある。
だが、簡単に廃棄される人材であるといったニュアンスが安易に含まれている気がして、サンダルフォンは何故だか息苦しく感じた。
クラスの低い職員は捨て駒かもしれない。死刑囚や身寄りのない、社会的地位の低い人が職員になってるのもそれなりにいる。
任される仕事は死と隣り合わせのものか雑用ばかり。
それでも必死に日々を生きていて、誰かの役に立ちたいと仕事をしているというのに。
暗く、心が、沈む。
顔が強張るサンダルフォンに声がかけられる。

「大丈夫か?」
「...え、あ...」
「顔色が優れないようだが…」

暗く表情のまま俯く青年にルシフェルは痛ましげに眉を顰めた。
カップを強く握る手、固い表情で中の黒い液体をじっと見つめる目はまるで何かに絶望しているような、負の感情が見られる。

「私は...私には人の死を悲しむようには出来ていない」
「...分かってる」
「すまない。せめて彼が無事でいてくれることを願おう」

サンダルフォンに触れようとしてハッと気付くと、その手を所在なさげにさ迷わせたのちに握り締めた。
しかし、このまま離れるのも駄目だと思い、彼の心が落ち着くまで隣に座りポツポツと雑談をする事にした。




その晩、Dクラス職員は全身が針で刺したような穴が空いた状態寝ているのを発見される。
既に息はしていなかった。